◆コーチと選手の関係 元卓球全日本女子監督 近藤欽司氏
12年間卓球の全日本女子監督を務めてきて、6回の世界選手権を経験したが、最も思い出に残っているのは、2001年の第46回世界選手権大阪大会です。
この大会のルーマニア戦では、選手も特別メニューを作ったが、応援団も奈良大学の先生に依頼して6人の専門家の派遣を受け、応援団のため息を選手に聞かせないように意識したり、選手が元気付くタイミングで声をかけたりと工夫を凝らしたのでした。
監督としては、1試合に1回取れるタイムアウトのタイミングを考えました。結局、1対1の決勝戦では、リードされた3セット目の3−7で取ったのですが、その時に「良かったときのことを思い出せ。安全に行くと相手に有利になるだけだ。攻めていく気持ちで、長いサーブを使ってみなさい」と声をかけたが、その甲斐あってか、攻勢に転じて逆転し、21−13で勝利し、18年ぶりのメダル獲得となりました。
◆卓球は、よく練習する真面目な人ほど試合で力を出せない
コンディショニングでは、特に国際大会では時差に気をつけ、また、日本人選手は他国の人となじめない傾向にあるので、極力他国の選手や人と交わることを心がけ、練習は必ず他国の選手と行い、レセプションでも日本以外に国の人たちの中へ入っていくようにさせました。そうしたことにより、国外でも平常心で試合をすることができるようになったと思っています。
中国がなぜ強いかということをよく聞かれますが、10年計画でその選手がどのくらい伸びるかを見ており、国内の競争も激しく、国際大会の成績如何で収入が劇的に増減するしくみがあります。世界選で18年ぶりのメダルを取って、卓球協会からの賞金がたったの10数万円の日本とは、環境が全く違っています。中国では金メダルで3年間、銀メダルで2年間、銅メダルで1年間生活できるだけの賞金が出るのですからね。
◆今年連盟を降りて、人材発掘に力を尽くしていく考え
ところで、どういう人が素質があるのかということですが、球を打ったときの感覚の差を何種類持てるかということも重要なポイントで、私たちは選手に7種類の打球感を要求しています。また、技の中で何か光るものを持っている選手ということが大切です。相手のネットインした球を反射的にカバーするような、予測に反するプレーができる選手などが伸びる選手と言えます。また、試合の後半、プレッシャーがかかる状況の中で十分な技が使え、強気にいけるかも大切な能力です。国際大会では、ラケットを持ち替えて左右どちらでも打ってくる選手などがいますので、対応力が求められます。17歳で全日本チャンピオンになった佐藤リカ選手は、先天的にこれらの能力を持っていたのではないかと思います。さらに彼女は、物まねがうまく、上手な選手、強い選手のいいところをすぐに真似てしまいました。そういうことも大事な能力だと思っています。
◆コーチの言葉の使い方も大事な問題
誉めるときは大きな声で、周りの人にも聞こえるように、しかる時は小さな声でというのが基本だと思います。練習中に光るところを見つけたときは、その場で声をかけ、本人に覚えさせることをしてきました。そのためには、ビデオでチェックさせることもいいと思います。私のいる白鵬女子高等学校では、インターハイ前に選手1人に他流試合100試合をこなすことを義務付けています。これが、本番で初対面の選手とやるときの力になっています。同校では全寮制の寮生活でいろいろ感じることが後の人生でも大切な糧になっていくと思っています。スポーツだけではなく人間として立派な存在となることを選手に求めていくことがコーチとしてあるべき姿なのではないかと考えています。
◆家庭の理解が必要だと痛感
コーチとして私がやってこられたのも家庭の理解が必要であったと痛感しています。最近定年で家にいることが多くなったら、家にいないのが実はよかったのかなと思うこともありますが…。(笑い)あとは、メモすることが好きで、何でもその場でメモしないと気が済まない質でした。
2度の大病を乗り越えましたが、特に2度目の心筋梗塞は大坂の世界選の3ヶ月前でしたから、本当に人生の転機となりました。この時に、手術に当たってくれた医師との出会いがなければ、こうして皆さんの前でしゃべっていることもなかったのかと思いますと、人との出会いが本当に大切なことだと思います。
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