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指導員研修会理論

平成15年11月8日(土)川崎教育文化会館
全日本スキー連盟・教育本部・企画委員会委員長 市野聖治

写真:理論研修講演 市野聖治氏
熱演していただいた市野聖治氏

写真:理論研修講演 市野聖治氏
企画委員会委員長 市野聖治氏

◆今回の教程は、パラダイムチェンジ、非常にメッセージ性が強い
  今回のスキー教程の改定は、今までの改定とは少し趣が違うと思います。今までは、少しずつ考え方を発展させていくということでしたが、今回は、大きなパラダイム(考え方の枠組み)チェンジです。PFドラッカーが、今の時代は断絶的変化を伴う時代と言っています。昨日まで上手くいっていたことが、明日から上手くいくという保証はないということです。まさにその意味で、パラダイムを変えるということで、今までの教程とは違うのです。その意味では、非常にメッセージ性が強いともいえます。

◆みんなで議論していきましょう
  世界中の人がこれが正しい、だからこうやってやりなさいという教程ではないのです。多少仮説的な面もあります。こうしていったらどう?こうしていきたいなというメッセージを含んでいます。多少危なっかしいところもあります。みんなで議論をしていきましょうという意味合いであります。この教程の目的は、スキー界が下向いていますが、少しでも上にむけたいという願いがこめられています。具体的には、競技の世界、オリンピックなどで日本がもっと活躍できる、あるいは、スキーが好きでスキーをやりたいと言う人がもっと増える、そういうことに寄与するように造られております。

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写真:理論研修講演 市野聖治氏スライド 新教程の理解(タイトル)
スライド

写真:理論研修講演 市野聖治氏スライド 中日ドラゴンズ福留選手
福留選手のスライド紹介

◆中日ドラゴンスの福留選手の写真がお土産?
 名古屋からきたので、お土産と言うわけではないのですが、中日ドラゴンズの福留選手の写真です。彼は、2002年に首位打者を取りました。今年2003年のシーズンでは、日本人ではホームランが一番多かったです。昨日終わりましたオリンピックのアジア予選でも打点王となった選手です。ここで注目していただきたいのは、2001年までプロの世界で3割を打っている一流選手が、もっと大きな飛躍を遂げるために、彼自身、バッティングフォームを変えることに挑戦したことです。2つの写真、2001年、2002年のフォームです。

世界のトップになろうとしたら、新しい考え方が必要
 こういうことは、スポーツ界にたくさんあります。桑田選手が一昨年、新しい投げ方をマスターして、カムバックし防御率1位になったことです。甲野善紀さんの考え方を導入して、物を投げる時に、蹴ってなげるのではなく、足をたたんで自分の重さを利用するのです。つい最近では、世界陸上で末續選手が200mで第3位となりましたが、とんでもない快挙だと思います。まさに、大きな変換、自分の体重を下に落とす力でスタートするのです。クレームがついて戸惑ったようですが、クレームがつかなければもっと成績が良かったと思います。走り方にしても、従来の腿上げではなく、ナンバ走りを徹底的に意識したのです。(ナンバ走り:江戸時代の飛脚が用いていたと言う走法。同じ側の手足を同時に出す感覚で、重心を低く保ち身体はねじらない。)
 いまのトップの人の分析をして真似事をしても、その人を追い越せないのです。世界を制覇する、トップになろうとしたら、新しい考え方、パラダイムチェンジをしなければいけないと言うことです。

◆さて、どちらのフォームが
 右のフォームが2002年のものです。モデルチェンジしたほうです。福留選手の右足の股関節に注目していただきたいのですが、この後、右足の股関節がたたまれて、体重が右に移動していきます。そのことによって運動が始動していきます。2001年までは、左足の踵のインサイドで蹴っていたのです。自然のエネルギーを使ってボールを打ちに行きます。

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写真:理論研修講演 市野聖治氏スライド カレ・パランダー
カレ・パランダーのスライドを紹介

写真:理論研修講演 市野聖治氏
市野聖治氏

◆15年前から模索していたすべりが目の前に現れた
 カレ・パランダーという選手です。昨シーズンワールドカップの後半から、突如表れて、回転で4連勝しました。この写真をみてびっくりしました。私は、15年ほど前から、ひょっとしたらスキーの技術的な未来は、内スキー主導で内向内傾になっていくのではないかと言い始めました。しかし、きちんと扱われませんでした。今でも、外向外傾と考えている方が多くいらっしゃいます。もちろん、外向外傾外スキー主導のターンもありますが、より合理的なターンを求めていくと、内傾内向だと言っていたのですが、受け入れられなくて、やきもきしていたのです。この写真を見てびっくりしました。まさに、右側のスキーのほうが左側のスキーよりたわんでいます。まさに内側のスキーに完全にウエイトが乗っているのです。この写真は、まさにフォールラインを超えていますが、まさにこのあと、ニュートラルゾーンに入っていく直前になります。こんなに自分の言っていることに近い選手が回転で4連勝したので心強く感じました。しかし、もっと言わせてもらえば不本意であることは、この選手が出てきたので、この選手が勝ったから、こういう滑りが良いという風にしたくないのです。早く滑るためにどうしたらよいのかと言うことを考えていくと、ここに落ち着くと考えたいのです。

◆教程には佐々木あきら君が載りました
 カレ・パランダーの両股関節とのラインを見てください。体の軸は1本で、体幹部が捻られていません。素晴らしい滑りです。本当はこの写真を教程に使いたいと思いましたが、日本の教程ということで、佐々木あきら君が載りました。佐々木あきら君も素晴らしい滑りをしています。右外足ターンはすばらしく、パランダーキッズに近い滑りをしています。しかし、左外足ターンは外向傾が強く、かならずずれるのです。もしこの左外足ターンが右外足ターンのようになれば、かれは表彰台の真ん中に立つことが期待できると思います。内向内傾内スキー主導の滑り方、これを新しいすべり方と考えます。今まで考えていたのは、外向外傾外スキー主導で、クルッケンハウザーの時代から徹底して外スキー主導です。

◆色々な意見、論争が、新しい考え方を生み出す
 残念ながら、私の意見と競技本部の意見は真っ向から対立しています。今年の競技本部の指針も外向外傾です。それに対して、ぜひディスカッションをしたいと思っています。

 話が変わりますが、阪神タイガースが今年強くなりました。いろいろ考えましたが、星野監督がやったことは、中日が最初に優勝したときとはまったく違います。ピッチングコーチに西本を起用しました。伊良部と西本は仲が悪い、理論が違うのです。金本が活躍しました。コーチは達川です。金本と達川は仲が悪いのです。わざわざピッチングスタッフ、バッティングスタッフで仲の悪い、大物選手と大物コーチをつれてきて、組織の中で徹底的にやっているわけです。これが、組織がチームが強くなる最大の理由です。一橋大学の米倉先生は、組織はいままでは効率的な伝達が最大の目的であったが、組織の中で新しいアイデア、新しい考え方が生まれていかない限り、チームとして、組織として存在する意味はないのだと、言っています。その意味で、こういうお話をしているのですが、あいつが、持論を述べて、自己主張しているのだとお考えにならないで下さい。違った考え方の人たちが自由に意見を述べて、その中から新しい考え方が生まれてくるのだということにしないと持たないと思います。私が、競技の方を批判したと誤解なさらないようにしてください。

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写真:理論研修講演 市野聖治氏スライド 2軸運動感覚
スライド3

写真:理論研修講演 市野聖治氏スライド 重力のスキー横軸成分
スライド4

◆2軸運動感覚
 カレ・パランダーの滑り方で、よくわかるのは、右腰と左腰に注目しています。右側の腰と左側の腰がどういう動きをしているのか。実は、この辺は教程には詳しく書いていないのですが、ひとつだけ「2軸運動感覚」というものです。内側の股関節はどういう運動をしているのかと言うと、股関節を外側に開く運動、あのターンに耐えられるように折りたたんで、そして内側のスキーにしっかり体重が乗るようにと、内側の股関節はもの凄い運動をしています。電車や列車の線路、車のレース場も全部外側が高くなっています。しかし、スキーの場合はフォールラインを越えて回り込んでいきますと、逆に足の位置が低くなります。そのために、内側の股関節が大きな仕事をしています。内側の股関節がターンの邪魔をしない、そんな消極的ではなく、積極的にターンを導くという仕事と、内側の股関節がターンの邪魔をしない。もの凄く大きい仕事をしています。打越のタタミと言っています。今年の技術選ですが、縁があってビデオの解説をしました。現地でも技術解説をやらせていただきました。その中で、2つのことしか言っていないのです。ターン内側への落下運動と内腰のタタミ込みです。質問があちこちから出たそうです。ジャッジマンもそばで聞こえていて、耳にたこができたようで、彼らは私を見ると「落下サン」と言って、ニックネームがつきました。トヨタ自動車の研究所に行きますと、ハンドルを切ったときの前輪の内輪と外輪の作用のところを研究しています。ハンドルを切りますと、前輪の内側と外側のタイヤではものすごく違う働きをしています。内側の方は、より大きくたわみます。外側の方はより回転数がかかります。そうしないとついていけないわけです。これこそ人間の感じで言えば2軸運動感覚なのです。外向外傾は外スキー主導は、外スキー1本のスキーであり、1軸ということになります。それを、2軸を求めていかなければなりません。この運動を理解する上で、参考になるのは、スケートの清水選手のすべりです。彼の滑り方、ターンの内側の股関節から股関節の動き。まさに、打つ側の股関節が外側の関節を追い越していく、あのシーンは、世界中のスポーツに関する研究者が注目しています。注目していないのは日本人だけかもしれません。
 そんなことで、カレ・パランダーの滑りで、内腰と外腰を考えます。いまでは膝や足首と言っていましたが、もっと胴体に近いところ、股関節が非常に重要と言うことです。

◆重力の落下運動では、横軸の落下を考えないといけません
  スキーが滑るとき、私達は重力の落下で滑っていくと考えています。このことは、世界中のスキーの教程に書いてあります。縦軸方向の落下です。もう一つ、横軸方向の落下を考えないといけません。縦軸は斜度によって規制されます。平地に置けばストップします。横軸への落下エネルギーは角付けによってきまります。スライド4の右下、カレ・パランダーの場合は、水平面より山側に角付けがされています。スキーの面と直角に交わる力と平行に交わる力に分かれます。そして、雪面から押し返す力によってスキーの裏側の直角に交わる力は相殺されますので、横軸方向の山側へ行こうという力が残り、その力でターン、回っていくんだということになります。さらに説明をすれば、ターン内側の落ちていこうとしても、斜面から抵抗が働いて内側にはいけません。どうするか、そういう場合には、行きたいというエネルギーだけ残って、しょうがないから真っ直ぐスキーは滑ります。スキーの板はフレックスがありますので、除雪抵抗を受けますと、スキーの先端が上に上がります。浮きますと、戻そうとする抵抗の中心が雪面から浮くことによって後ろにずれます。回転モーメントが働き、スキーの先端が内側に落ちることになります。これがカレ・パランダーのやっている内スキー主導滑り方のポイントです。

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写真:理論研修講演 市野聖治氏スライド カービングターン スキーモデル
スライド4

写真:理論研修講演 市野聖治氏スライド トップコントロール
スライド5

◆東海テレビの「テレビ博物館」と言う番組で
 この映像は、4年前に東海テレビの「テレビ博物館」と言う番組で、いまと同じ説明をしました。そうしましたら、テレビのディレクターがテレビと言うのはラジオじゃないので映像で見せたい、ということになり、一晩徹夜で苦労しました。出来上がったときは、カレ・パランダーの写真を見たとき以上に感激しました。特に、トップの部分を注目してください。

 スライド4のスキーは、Rのない直線のスキーです。通称カービングターンは、Rで回っているのではない、と言うことです。その証拠に、水上スキーやウインドサーフィンの形をみてみますと真中が膨らんでいます。ですから、ターン内側に落下しながら回転をしていく運動の基本的な原理は、スキー横軸方向の落下が起こるということ、それからスキーの性能であるフレキシビリティがあることです。では、Rはなんだと言いますと、同じ角付けで、同じ重さで、同じ斜度でやりますと、Rがついていたほうが、Rが小さいほうが回転半径は小さくなります。ですから、定性的なといいましょうか、スキーがターン運動を起こす基本的な原理にはRは関係ありません。しかし、定量的などれくらいということではRは関係します。

◆歩いている時に方向を変えるのは内回り
 ターン内側のスキーに圧を加え、それをターン内側に落下させるようにしたいのです。つまり、荷重と角付けですが、荷重が必要です。当然のことながら、歩いていて方向を変えるのに、外足から回る人はあまりいません。内回りで身体の向きを変えます。これが内スキー主導の基本的な考え方です。スライド5では、内側にウエイトをシフトして山側に落下する運動を作り出していることが必要です。このデモンストレーター上手いのですが、撮影時点で十分なコンセンサスが取れていません。この腰の位置は、パランダーキッズに比べれば、遅れているといわざるを得ません。その意味では、たぶん滑り手の感覚から言うと、いやな感じだと思われます。今年の教程のビデオ、検定のビデオのトップコントロールは今までとは違ったことをやっていますので、外側の腰が全部遅れ気味です。乱暴な言い方をすれば、完全なトップコントロールをマスターしているデモンストレーターはいないと思っています。これは技術論です。もちろん、プレイヤーとしては凄く上手いのですが。

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写真:理論研修講演 市野聖治氏スライド スキー縦軸に沿う力と内向
スライド6

写真:理論研修講演 市野聖治氏スライド 遠心力と内傾
スライド7

◆内倒するのかというのは、縦軸と横軸の比で決まる
 スライド6は、矢印ターン方向へターンしていくときに、ターン内側の力を引き出すと考えてください。合力の方向から、当然のことながら、この力に対して体幹部は正対方向となります。かなり誤解している人が多いのですが、スピードが大きくなると内傾内向が大きくなると思っている人がいます。誤解です。より正対に近づいていくのです。
 この辺が、先ほどお話をした、競技のコーチと意見が合わない原因だと思います。競技の世界ではスピードの次元が違いますから、結果として内倒を意識しない状況にあると考えられます。
 いずれにしても、どのくらい内倒するのかというのは、縦軸と横軸の比で決まるわけです。

◆内径は、ターンを起こすための原因ではない
 この考えかたは今までの教程でも有りました。カービング要素といいます。指導員検定種目にプルーク3態というのがありました。押出し操作、捻り操作、傾け操作です。いわば、傾けるとスキーが回ると言うイメージがあったのですが、今回の教程では、内径、傾けると言うのは、ターンを起こすための原因ではないという立場を取っています。
 スライド7の左の写真は、直滑降の縦軸の滑りからターン内側にウエイトを載せて、角付けをターン内側に倒す、まさにそういうことをやろうとしているところです。しかし、これより傾いたら倒れてしまいます。傾けばよいと言うわけではありません。

◆内傾していると同時に、造られた水平面に対して直角に立っている
 スライド7の右の写真は、ターンが起きました。ターンが起きたと言うことは、向心力が出たと言うことで、遠心力を受けます。自分の持っている重さに対して遠心力が働いて、重力と遠心力の合力が生まれます。どういうことか、静止したところに水の入ったバケツがあります。これが水平です。バケツを回転させてみれば、バケツの中の水は回っていくほうの反対の方向へ盛り上がって生きます。水平面が動くと言うことです。重力を受けた分だけ、水平面が外側に盛り上がる、遠心力によって作られた水平面、要は合力と直角な面が作られた水平面となります。これは、内傾していると同時に、造られた水平面に対して直角に立っているといえるわけです。それより内傾したら、その人は倒れるのです。内径は、ターンの結果あらわれるものです。個人的には、これを相対的水平面と呼んでいます。

◆いままでずっと、自分の力で押出してと感じていたわけ?
 遠心力については、私達の重さは、遠心力が働くので大きな力が加わることにあります。私は、見かけの体重増加といっています。遠心力を受けると体重が増えたように感じます。ターンの後半、見かけの体重が増えたように感じます。いままでずっと、自分の力で押出してと感じていたわけです。とんでもないことですよね。自分で押出すなんてことはできるはずがありません。これは、残像としてあたかも自分が押出したような気持ちになることを言っています。この辺のところを整理して考えましょうと言うことです。教程にも書いてあります。

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写真:理論研修講演 市野聖治氏スライド 2軸の問題
スライド8

写真:理論研修講演 市野聖治氏スライド 遠心力によって作られる水平面
スライド9

 スライド8は、2軸を表しています。特に遠心力を受けますと、どうしても外側に助けが必要になってきます。内側と外側の2軸の問題が極めて重要であります。
 スライド9は、相対的水平面の算出方法です。

写真:理論研修講演 市野聖治氏スライド スキー技術の考え方
スライド10

写真:理論研修講演 市野聖治氏スライド スキー技術の原因と結果
スライド11

◆基本的なメカニズムは、重力による落下運動がターン運動を起こす
 スライド10 スキー技術の考え方についてどういう風に考えたらよいのでしょうか。スキー技術と言うのは自然のエネルギーがスキーを動かします。具体的には重力の落下というエネルギーが、それによって起こる抵抗とのマッチングでスキーにターン運動を起こします。先ほど、映像を見ていただきましたが、あの映像は人間は一切関与していません。条件を作り出せばターンをするのです。基本的なメカニズムは、重力による落下運動がターン運動を起こすということです。これは不思議なことではなく、先ほど紹介した、末續選手や福留選手、桑田選手が取り入れています。野球も陸上もみんな平地です。スキーは斜面ですので、余計に重力の落下が大きな問題になります。当然、このことをしっかり意識しましょう。では、人間は何をやるのか、この条件を、目的に合わせてコントロールするのが人間だと言うことになります。人間がダイレクトにスキーを回すと考えているのは傲慢です。

◆私達は原因と結果を混同してきた
 スライド11でもっと詳しく説明しますと、人間が物理的な運動をコントロールしてターン運動に結び付きます。当然スキーの性能も絡んでします。それで、人間が物理運動を引き出すにを、スキーのター運動の引き出す原因と考えます。いままで、私達は原因と結果を混同してきました。ターンが起これば私達は傾かなければいけない、ターンを継続していくためには、ターン外側にスキーを押している感覚になってしまい、そのことで結果を原因と考えてしまったのです。
 いわば、滑り手の感覚として、こうしたいのだということをはっきりさせたいということです。人間は心をもった動物ですから、心理的なものが大きな影響をもっています。当然、もっと早く滑りたいということであれば、パランダーの滑りのようなトップコントロールで滑ればよいし、もっとゆっくり滑りたい、スピードを出したくないということであれば、トップコントロールは採用されるはずがありません。スキーの技術は人間の心をスタートラインにして、どういう原因を作って、どういう結果を求めていくのか、全体を見て考えましょうと言うことです。

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写真:理論研修講演 市野聖治氏スライド スキーの縦軸・横軸方向の落下運動
スライド12

写真:理論研修講演 市野聖治氏スライド 角付けの定義
スライド13

◆テールコントロール クルッケンハウザー教授の時代
 こんどは、ターン外側、谷側に落下のエネルギーが働きます。私達が長い間やってきた滑りです。このエネルギーを生むためには、水平な面よりも谷側、ターン外側にスキーを傾けます。そうしますと、同じ原理でスキーは下にずれていきます。一番単純で解かりやすいのは「横滑り」がおきます。クルッケンハウザー教授は横滑りと横滑りの連続がターンだと言いました。新しい教程ではテールコントロールと言っています。この滑り方は、スキー自体のフレキシビリティが十分でなく、サイドカーブもあまりついていなかった時代でも、スキーの先端に抵抗を受けて、重力がモーメントが働いてテールが外側にずれることで、テールコントロールと言いました。

◆トップ&テールコントロール ポピヒラー教授の時代
  だんだんスキーの性能がよくなっていて、スピードを求めてきます。ポピヒラー教授の時代は、外側への落下のを少し制限する、あまりおおきく外側に落下させない、いわば縦軸に近い方向へ求めていく、スキーの性能もよくなってきたので、フレキシビリティがあって、重さを加えて角付けすると、スキーがしなる。そうすると、重力と抵抗とのバランスでテールがあまり外側にずれない、トップがちょっとだけ内側に先行して、トップ&テールコントロールの滑り方が実現します。その意味では、トップコントロールとトップ&テールコントロールの滑り方は大きく違います。トップコントロールはターン内側への力をコントロールします。トップ&テールコントロールはターン外側への力を求めるわけです。

◆角付けの定義が変わってくる
 こう考えていきますと、角付けの意味が変わってきます。いままで世界中のスキーのテキストには、角付けというのは、スキーの角を斜面に立てるというのを角付けの定義にしてきました。しかし、スキーの横軸方向への落下の問題を考えていきますと、角付けがどうなっているかということは意味を持ちません。水平な面に対して、角付けがどうなっているかということが大きな問題になります。その意味で、スキー横軸方向の落下運動をおこすということで、水平面への角付けと概念が生まれてきています。斜面への角付けというのは、落下運動を伴って雪面抵抗を受けると言う意味で大きな意味をもています。この水平面の角付けと斜面への角付けは、新しく中核的な概念として出来たもので、ナショナルテキスト、各国のスキー教程でこのことを表示したのは、日本が始めてです。1月のインタースキーでも、私は基調講演の機会を与えられましたので、話をしましたし、反論もありませんでした。この考え方は、新しい考え方として、是非ご理解ください。

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写真:理論研修講演 市野聖治氏スライド テールコントロール
スライド14

写真:理論研修講演 市野聖治氏スライド トップ&テールコントロール
スライド15

◆上手くなると、トップコントロールはスタンスは広くテールコントロールは狭くなる
  スライド14はテールコントロールなのですが、ウエイトを谷側、ターン外側のスキーに載せることによって谷川に落ちる角付けとなります。テールコントロールは外スキーが主で1軸運動です。内スキーは何に使うかと言うと、バランスを保つためだけに使っています。テールコントロールはうまくなると閉脚になります。バランスを保つために内側のスキーを使う必要がなくなります。
 それに対して、内側のスキーを使って内側に荷重していくと、スタンスが狭ければ、内側に傾きを作る動きはわずかしかできません。 そうするとスタンスが広くなる方が良いわけです。スピードの速い新幹線のレール幅が広いということと同じです。トップコントロールの場合は、技術が上手くなってくると、スタンスは広くなるのです。テールコントロールは狭くなるわけです。
 スライド15はトップ&テールコントロールです。横軸方向の落下を少し押さえよう、テールコントロールよりスピードに対応できるということで、左右の軸両方を使いましょうということで、教程では両スキー主導と言っています。スライド15で、角付けがかなり傾いていますが、どうしてテールがずれるのかと言いますと、遠心力によって生まれる相対的水平面より角付けが谷側に倒れているということだからです。
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写真:理論研修講演 市野聖治氏スライド スキー縦軸に沿う力と外向
スライド16

写真:理論研修講演 市野聖治氏スライド ターン運動の原因と結果
スライド17

◆合力方向へ身体が正対するのが、一番合理的
 スライド16は、イメージ的に、左をテールコントロール、右をトップ&テールコントロールと考えてください。 両方ともターン外側の力は同じで、縦軸方向の力が違います。いずれも、合力方向へ身体が正対するのが、一番合理的なのです。これが外向になり、外スキーに乗るために外傾となります。外向の向きは、縦軸と横軸との比によって決まってきます。

◆ターン運動の原因から3つがある
 いままでお話してきましたことは、ターン運動の原因として、テールコントロール、トップ&テールコントロール、トップコントロールの3つがあるということです。トップコントロールは、従来カービングターンと言っていたものを生み出すもので、なぜカービングターンという言葉を使わなかったと言いますと、カービングターンは完成されたターン、楽しい、文化的な要素を含んでカービングターンと言いますので、その技術の一部をトップコントロールと言う名称で使いましょうと言うことです。言い方を変えますと、向心力の得方でこの3つがあるともいえます。

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写真:理論研修講演 市野聖治氏スライド 荷重・角付け・回旋
スライド18

写真:理論研修講演 市野聖治氏スライド スキースポーツにおける目的と手段
スライド19

◆荷重・角付・回旋の整理
 スライド18 いままでの考え方は、荷重角付け回旋を一体にすると言うことでした。しかし、今回は、荷重、角付けを一体にして、スキーの横軸方向への落下運動をコントロールするわけです。もうひとつは、抜重回旋。ウエイトを抜いてスキーの向きを変えます。考えてみれば解かりますが、荷重して回旋は出来ません。抜重回旋とは、開きだすとか、ジャンプして方向を変えることです。荷重角付けはターン内側に落下するエネルギーを作るやり方と、ターン外側に作るやり方があります。トップコントロールと言うのは、舵取りから切り換え、そして舵取りのすべてを、ターン内側への荷重角付けで行います。テールコントロールと言うのは、舵取りを荷重角付けによってターン外側にスキーを移動させ、切り換えは抜重回旋で行います。トップ&テールコントロールは、舵取りも切り換えも、荷重角付けで行いますが、舵取りはターン外側にスキーを移動させます。切り換えはわすかにターン内側に移動させるテクニックを使います。

◆トップコントロールもテールコントロールも技術についての優劣はない
 スキーの技術についての話です。トップコントロールからテールコントロールまで、状況に応じて、あるいはスキーヤーが持っている楽しみ方の方法論について、トップコントロールとテールコントロールで、技術についての優劣はありません。どれも同じ意味合いを持っています。 そういう意味では、前教程の実技編のなかにある、セーフティ、コンフォート、チャレンジという考え方に非常に近いのです。ただ、技術論と心理的な欲求を混同するとまずいということで、今回は、それを整理したと言ってよいでしょう。
 しかし、早く滑れることが技術と考えれば、トップコントロールは非常に優位性があるということです。競技について言えば、トップコントロールは落差が必要です。落差があれば、トップコントロールが有利です。ただ、セッターがそれを許してはくれませんから、テールコントロールまで使わせたりすることになるでしょう。その場合、技術的には、より自転運動を大きく、落差を小さくするために、テールコントロールを使います。そういう意味では、スキー技術は決してトップコントロールだけではありません。

◆私達は個性を制限して、全体として効率的になるシステムを採用
 目的と手段を分けて考えましょうと言うことです。第2次世界大戦が終わってから、それこそ焼け野原になってから、たかだか40年ぐらいで日本はGNPでいえば、世界のトップクラスの国に発展したわけです。人類の歴史上で例を見ないと言われています。なぜ、そうなったのか。色々なことを言う人がいますが、ひところで言うなら、日本人はちょっとぐらい自分を我慢しても、自分のやりたいことを少し制限されても、効率を重んじて、みんなと一緒のことをやりましょう、と言うことを出きるわけです。我慢してきたのです。それで、とてつもない短期間に経済的な大発展をしたのです。したがって私達のシステムは一人一人の個性を制限しても、全体としてより早く、物質的に豊になることを採用してきました。
 そのことは、スライド19で言えば、手段を徹底的に磨くことによって、手段が上手くいけば目的も必然的にいくだろうと考えたわけです。

◆修学旅行のスキー実習は参加者の75%が2度とスキーをやりたくない!
 いま、問題になっていることは、手段の目的化を指摘されています。例をあげれば、修学旅行のスキー実習に参加した生徒にアンケートをとりました。スキー実習に参加した生徒の75%が2度とスキーをやりたくないそうです。指導員がサボっていたわけではありません。指導員が一生懸命教えれば教えるほど、このパーセンテージは上がっていくのです。私達が持っているスキーの技術、指導の考え方は大勢の人が短期間にある程度まで上手くなるという意味では、合理性があり妥当性がある方法を取ってきたと思います。たとえば、15人なり20人なりで、まずは平地滑走だと。上手くならないと危険です。上手くないと楽しくないのですから、平地で歩いて、直滑降、プルーク。そしてもう帰らなければいけないときに、むりやりリフトに乗せて、転げまわって帰ってくる。
  スキーに何しに行った?大自然の中で人間として対峙して、何か豊かなもの、得るものがあったか。スキーをする面白さ、意味付けが出来ていないのに、技術なんて論じてもしょうがないのです。個人の主観的な価値観に依存するのです。いままで、個人の自由な価値観を制限してでも、みんながある程度の所に行く方法論をやってきたのですが、もはや通用しません。実は、教程の「誘い編」がこの辺のところを論じているのです。

◆小澤征爾さんはニューイヤーコンサートの後1月8日にはスキー場に
 指揮者の小澤征爾さん、初めてスキーをやった日に骨折しているのです。それでもスキーをやっています。いまから10年程前、ボストンの常任指揮者のときに、転倒して右肩を打って、肩が上がらなくなりました。でもそれによって回数をへらすどころか、凄い勢いでスキーに行っています。なぜか?自分は文化的な生活をするために、人間として自然に挑戦することをしていかないと生きてはいけない、自然に対しチャレンジし、自然に対峙し、人間とは何だろうと考える、そうしないと創造的なことができないと言うのです。片一方では、スキーの面白さをわかって、楽しさを追求している人がいます。一昨年、ニューイヤーコンサートが終わったあと、1月8日には奥志賀に立っていました。それはスキーへの意味付けができているからです。ですから、スキーの意味付けが無いのに技術なんか言ったってしょうがないのです。ここは、教程としてもの凄く重要なメッセージを伝えています。それが、目的と手段の関係です。競技選手で言えば「早く滑りたい」ということでしょう。こういう滑り方がどうこうというのは、たまたま手段としてやっているだけなのです。

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写真:理論研修講演 市野聖治氏スライド スキー商品つくりのコンセプト
スライド20

写真:理論研修講演 市野聖治氏パワーポイント
熱心に講演は続く

◆指導という商品を考えると、人々が感動できるものでなければならない
 私の教え子で、トヨタの新車を開発している人がいます。トヨタのコンセプトはスライド20の技術のところが性能だそうです。このレベルまで行かないと駄目だと車つくりの中で考えているのです。スキーの商品、指導という商品を考えると、人々が感動できるものでなければ、その人がスキーをやったことによって人間として感動できるものでなければ指導といわないということです。スオッチは時計メーカーです。5ドルから3万ドルの時計があるそうですが、時を正確に刻むということだけを言えば、ほとんど変わらないそうです。では、違いは何か?それは感動なのだそうです。3万ドルどころか、5万ドル10万ドルのスキーの指導を考えなければいけないのです。

写真:理論研修講演 市野聖治氏スライド 階段方式の指導
スライド21

理写真:理論研修講演 市野聖治氏スライド はしご方式の導入
スライド22

◆松永貴志君は効率的な指導法を受けなかったから、凄いピアニストになった?
 そう考えていくと、私達がいままで効率的に良いと信じていた、導入-基礎-応用-発展は良いのか?悪いとはいえませんが、これだけやっていれば、スキーヤが増えるのか。
 高校生でジャズピアニスト松永貴志君、お父さんがジャスが好きで、5年程前からジャズを聞いて、家に帰ってピアノで引いていました。たまたまチャンスがあって、ニューヨークで競演したそうです。その競演したナンバーワンのピアニストから、非常に高い評価を受けた。左手の使い方が素晴らしい。ピアノは右手主導らしいのです。彼は独学なんです。もう一つ、即興が凄いと。普通若い人は即興が下手なのです。彼は、最初から即興です。そう考えてみますと、かれは、妙に効率的な指導法を受けなかったことによって、凄いピアニストになったと言えるわけです。
 古武術の甲野善紀さん、基礎基本は嫌いだと言っています。どうしてか、自分はまだ修行の身であるからだそうです。基礎や基本は完成されたものがあるから基礎や基本があるのですという。なにかないかということで、梯子方式を考えました。
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写真:理論研修講演 市野聖治氏スライド 基礎から行うことの問題点
スライド23

理写真:理論研修講演 市野聖治氏スライド 2つの基礎
スライド24

◆階段方式の基礎はつまらない、梯子で自由自在に
 基礎は、つまらない、わからない、むつかしい…なにもい良いことはありません。また、基礎は2つあります。
 梯子方式を考えたのですが、梯子が3つあるのですが、支柱の太さや高さを自由自在に変えればよかった。また横の梯子も広いところと狭いところを作ればよかったと思っています。どういうことかといいますと、一つ一つの梯子の横のステップは意味を持ちません。支柱に意味があります。ひょっとしたら上から下へ行って良い。自由自在に考えようということです。そして、ターン運動の原因をはしごにおいて行ったらどうかと考えています。

◆両開きプルークは回転の過程にある必然性はありません
 今回の教程では、両開きプルークについて、両開きで止まるところで取り上げていますが、回転の要素で両開きプルークは排除しました。斜面立って両方に落下させるということは考えられません。回転の過程の中にある必然性はありません。プルークボーゲンは両開きではありません。回転の外側に落下していく、ちょっと語弊あるかもしれませんが、外側片開きの連続であると考えます。

◆変化することはリスクがある。しかし、変化しないことはもっと危険
 この教程は長く続くとは思えません。今日出た教程は明日から改訂されなければならない宿命を持つと書いてあります。そういう自覚を持って出すと言うことは、変化に時代にあって、先見性だんだと。これ凄いことです。こういう言葉があります。「変化することはリスクがある。しかし、変化しないことはもっと危険なんだ」この言葉は大変意味があると思います。競技の世界においても成果が上がる、そういう未来を抱きながら、先生方と一緒にできることをやっていけたらと思っております。

写真:理論研修講演 市野聖治氏パワーポイント
競技の世界でも成果を

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