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◆佐伯SAJ専門委員 詳細内容

■「指導実習理論」佐伯SAJ専門委員

 この時間は指導実習の理論、実際にみなさんが現場で指導をする際に必要なこと、教程の「指導理論編」をお話しします。理論の勉強ですが、模擬問題集が参考になります。昨年は検定の内容が大幅に変わりました。正指の試験は昨年1年分しかありませんが、準指は各県連の問題が掲載されています。一作年、私は北海道の正指検定を担当しましたが、その際40名神奈川から受験されました。合格したのは20名、そのうち10名は理論の勉強不足でした。正指を受ける方はくどいようですが、くれぐれも理論の勉強をがんばっていただきたい。

 準指は指導理論編からほとんどが出題されます。落とす試験ではなく、できるだけ多くの方に受かっていただきたいという意味で出題します。指導員として知っておいて戴きたい知識を抜粋して問題にしたいと思っています。今年はスキー教程が5冊分冊されますが、全部を読んでもスキーそのものがうまくなるわけではありません。教程には指導員として活躍する際に参考になることがたくさんかかれていますので、資格を取得したあとも繰り返し読まれると良いと思います。

◆スキーが滑る原理を認識しよう

 スキーが滑る、専門用語で言うと、「落下運動」で等という表現になりますが、平たく言うと、重力にしたがって落ちていくということです。斜面に立つとスキーの板と雪の間に摩擦抵抗が生じます。その摩擦によって熱が生じ、熱が雪の表面を溶かします。その解けた雪がワックスの役目をして、スキーを推進する、というのがスキーがすべる原理です。このことから滑走面が雪面に接している時が一番スキーが滑る時ということがわかります。例えばこぶを滑る時、こぶの土手(はら)に板をぶつけてくる方が多く見受けられます。減速したいという意識があるのだと思いますが、滑走面が次のこぶの腹にあたりますから、すべりが良くなります。加速したい時はこれで良いのですが、減速したいときにこのようなすべりをすると、角付けした角度とこぶのはらの角度がぴったり合って、板が走っていきます。減速させるためにはその逆、滑走面を雪面につけないようにすると良いです。急斜面のこぶを減速させてすべるには、こぶの裏側にエッジをひっかけるように、削り込むようにすれば、それほど角付けを意識しなくてもこぶの裏側のきつい斜度にうまく合って板が浮く状態になり、減速しやすくなります。しかし、50cmくらいのわずかな差で、こぶの裏を削りこむようにすべるつもりがこぶの腹にあたってしまうこともあるかと思います。そのような場合は、板が走ることを予想していけば、落ち着いてすべることができます。スキーが滑る原理がわかると、このようなことも理論としてわかってきます。また、こぶの中で転んだ時、後ろに転ぶ人が殆どですが、後ろに倒れるということは、ひとつには自分の目で見てしまいこぶにぶつかった時に前に倒れずに後ろに倒れようとする意識が働いて腰を引いてしまうということと、今お話ししたように、こぶの腹に板をあてると走るということがわかっていないので、結果としていたが走ってしまい、体が遅れてしまうためです。こぶというのは、バランスよく滑れるというものではありません。スキーの理想はいかに良いポジションに乗るかということですが、こぶの中ではポジションがこぶによって前後、左右、上下に動かされてしまいます。その重心をもとにもどしながら滑ってくる、1ターン、1ターンリカバリーの連続だと思ってすべれば良いと思います。その結果がうまいすべりになります。実技の際にもそのように理解していただければよいと思います。

◆自然環境への認識

 スキーに限らず、アメリカのスポーツ医学の研究データを見てみますと、体が一番機能する気象条件は気温が18度、湿度が60%の時だそうです。この条件を日本に当てはめると5月と10月にあたります。この時期には運動会がおおく開催されるのはその理由によるかと思います。冬場スキーをする時は保温に気を配りますが、初心者の方は経験がないので、何枚着たらよいかということがわかりません。皆さんが生徒さんを持つ場合、特に雪無し県の方を引率する場合は、気温の感覚にも配慮すると良いと思います。日本の平均気温は緯度1度北に向かう毎に1度さがると言われていますし、100m登ると−0.6度下がる、風速1mの風が吹くと体感温度が1度下がるというようなことも頭にいれて、特に子供さんを指導される場合はきをつけていただければと思います。また、雪山へ行くと、太陽の反射でまぶしく感じます。人間の目が許容できる光の範囲は日本人の場合2000ルーメンですが、夏の戸外では6000ルーメン、晴れた日の雪山では10000ルーメン、許容量の約5倍もの光が入ってきます。サングラスやゴーグルで目の保護をしなかった場合、雪目や充血など引き起こします。指導する際はこのような知識も年頭において配慮していただければと考えます。また、頭脳が良く働く条件は、摂氏4度くらい、日本では2月にあたります。理論検定は3月初めの、比較的頭脳が働く時期に設定されている、ということです。

◆準指の試験問題について

  準指の理論検定の試験問題についてですが、いくつか勉強しておいたほうが良いポイントをまとめてみたいと思います、「指導理論編」115ページの左段落「スキーの学習は基本的に運動全体の学習(全習)が可能な環境や条件を選定し、運動の質の高まりを目指すカリキュラムの作成が必要です。」とありますが、ここでは、一日の指導カリキュラムを立てるということが重要だということです。1日の中で何をするか、生徒さんのレベル、環境、条件を加味して教えるということが重要だということです。ここは特に書けるようにしておいてください次に118ページ「(3)自発的な学習意欲の喚起」ですが、ここでは生徒さんにやる気を起こさせるということをいっています。指導の一番の目的は、生徒さんのやる気を起こさせるということです。そのためには何をすべきなのかということが太い活字(1)〜(5)まで書かれています。ここの言葉も書けるようにしておいてください。次に146ページの「3 スキー指導評価の実際」の(1)指導のあり方についての評価の「1.良いスキー指導とは」に4つあげられています。ここでは例えば、「精一杯(  )くれた」というように、( )に何が入るか、というような覚え方をしていただければと思います。書けるようにしておけば一番問題ないと思います。以上3箇所、よく勉強して、あとは全体的にざっと読むようにしてください。

◆一番理想的な運動を体に覚えさせること

 教程を後から読み返すと良いことが書いてあります。例えば127ページにイメージトレーニングについてかかれています。受験者の方は一年中スキーを忘れないように努力していると思いますが、私の場合は逆で、シーズン終わりになると悪い癖が出てきます。冬の間いろいろな斜面を滑ると重心の位置がずれたり、バランスが悪くなったりしてしまいます。そのため、夏の間は特になにもしません。そうすると、体がスキーのことを忘れます。秋口になって、イメージトレーニングを始めます。畳の上、床の上で、はだしや靴をはいて、デモが滑っている写真をみて、ポーズをとったり、基本的な体の使い方をゆっくりやってみます。そうすると、今までスキーのことを忘れていますから、一番理想的な運動を体に覚えさせることができるのです。このようなことをしてシーズンに入ると、一番いい状態でシーズンを始めることができます。皆さんも種目の練習をするとき、板を履いてやるとうまくいかない、ということがあると思います。そのようなときは、板を脱いでやってみるとおそらくいろいろな動き、理想的な動きができると思います。特に皆さんが一番苦手とするゆっくりとした動き、ひざの曲げ伸ばし、股関節のひねり、足首のまげ、体重の移動をやってみると、床の上ではできると思います。そのようなことを1日10分程度おこなって、体に覚えさせますと板をはいてからもそのような動きができるようになります。都会のスキーヤーとして、雪の上での練習だけではなく、そのような工夫をして上達することもできますし、悪い癖もとれます。イメージトレーニングも皆さんの練習に取り入れていただければ良いのではないかと思います。

◆カービングスキー素材

 先ほど専務理事の話にもありましたが、最近はカービングスキーが主流です。全日本でも一昨年から取り入れました。日本の市場には4年前、ヨーロッパの市場では約10年前から出始めました。トップとテールが膨らんでいてウエストの部分がくびれているという形状は従来のスキーと同じですが、サイドカーブのつくりが極端になっているという点でことなります。カービングのようなスキーに乗れば容易にターンできるという事は従来から分かっていました。なぜこのようなスキーが今までできなかったかと言うと、その素材に問題がありました。スキーはいろいろな素材を何層にも重ね、接着剤でとめています。しかもある程度の弾力を持ちながら折れない材質にする必要があり、材料よりも接着がうまくできませでした。特にウエストを細くするとウエストの部分がとてもきつくなります。今はビンディングがやっとつくくらい、またはブーツの幅よりも細いくらいにウエスト部分が作られています。材質と接着剤の開発によって、現在のようなウエストの細いスキーが出来上がりました。

◆カービングスキーはイージーターンスキー

 3年ほど前からSAJもカービングスキーに本格的に取り組んできました。しかし、その名称から「カービングスキー=カービングターン」というイメージで捕らえられてしまう傾向が強いと感じます。特にこのカービングターンというイメージは曲がるというよりも、刻む、彫る、というイメージでのカービングですという話も研修会の中で聞いています。したがって、カービングターンをするためにはカービングスキーを履いて、細いシュプールでターン弧を描くというイメージを持ってしまいます。結果としてこれが中級者クラスの方のいわゆる暴走スキーヤー、スピードのコントロールができないまま加速してしまう危険なスキーヤーを増加させてしまっているかと思われます。ところがこのカービングスキーは、カービングターンそのものも容易になったということもありますが、もっと大きな効果として、ターンの回転弧そのものが描きやすくなったといことがあげられます。ご存知の通り、スキーのターン運動は加重、角付け、回旋という3つの運動から成り立っています。カービングスキーは、板そのものが回旋性能を持っているスキーです。つまり、加重は踏みつける、角付けは体を内側に傾けるということで意識付けられます。ところが、回旋は、股関節を中心とした脚のひねりによって回旋運動をあたえます。脚のひねりという運動は、日常生活の中ではあまり見られない運動、使わない筋肉です。このひねる動作が上級者でないとできない運動です。しかし、このカービングスキーを使うことによって、板そのものが回旋性能を持っているので、加重と角付けだけで板が回旋します。つまり、バランスよく板に乗って、体をうまく傾けることができれば、自動的に板がまわってくれるというのがカービングスキーの特徴です。したがって、むしろ個人的には「イージーターンスキー」とかという名称で、カービングスキーというものを理解したほうが分かりやすいのではと思います。カービングスキーを履いたからと言って、必ずしもカービングターンをしなければならないと言うことではありません。逆に回旋性能を持つ板ですから、特に初心者中級者の場合はバランスよく板にのればいたが回ってくれます。その回り方を、細いシュプールを最初から目指すのではなくて、特に初級者の場合はスキッディング、幅広いシュプールでずらすということが基本だと思います。バランス、スキー操作、若干のひねりの操作ができる、中級者、上級者になってくると、細いシュプールを描けるようになります。カービングスキーはまったく横ずれしないというわけではありません。基礎スキーを指導する場合、むしろカービングスキーでも横ずれしやすい板の方が適しています。競技用の板ははうまく横ずれしてくれません。特に正指受験の方、プルークボーゲン三態、という種目がありますように、どのようにすれば横ずれするかということを表現しなくてはなりません。この3つの違いをきちんと体で表現して使い分けないと基本的な合格ラインにはいきません。昨年、カービングなのにずらさなくてはならないのかという質問をずいぶんうけましたが、その方に対してはカービングスキーそのものに対しての理解が違うのではないかということでお話させていただきました。名称はカービングスキーですが、「イージーターンスキー」という、置き換えた感覚で整理をしていただければスキー技術をどういう風に理解しなければならないかということもお分かりいただけるのではないかと思います。これは準指受験の方も同様で、準指のプルークボーゲンはカービング要素でありながら、きちんとずらし、ひねりを加えるという技術ですので、このあたりの理解がきちんと整理されていれば受験そのものも怖くないでしょうと思います。

◆ぜひ体調をととのえて、悔いのない受験を

  蛇足ですが、去年検定が変わり、技術用語が混乱しました。教程の中の検定技術編で「コンフォートパラレル」と言う言葉がでてきました。あたかも「コンフォートパラレル」という名前の新しいパラレルターンができたと理解した方も多くいらしたかと思いますが、本来、「セーフティ」「コンフォート」「チャレンジ」というのは嗜好別の言葉です。「セーフティ」嗜好の方にはスキッディング要素で、「コンフォート」嗜好の方には上下動、ひねりを活用して一番楽なスタンスで滑れる滑りを、「チャレンジ」嗜好の方にはより早く、ずれの少ないカービング要素の大きいターンを指導するということで、嗜好別用語と技術用語が分かれているべきなのですが、特に「コンフォート」と「パラレル」(技術用語)が一体のように使われたということで、混乱をまねきました。皆さんも指導する際には「ずらす」「きれる」など簡単な言葉を使うなどして混乱のない指導をしていただければと思います。
最後になりますが、受験は長丁場になりますので、ぜひ体調をととのえて、悔いのない受験をしていただけるようがんばっていただきたいと思います。皆様のご検討をお祈りしております。


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